(1) 絶対考課と相対考課。人事考課の方法として、すでに言葉自体は耳にしたことがある方も多いと思いますが、それぞれ別の機能を有しているため、使い方を誤ると逆効果になってしまいます。
絶対考課は、社員一人ひとりに評価の基準となる物差しを決め、それに基づいてその者を評価し、その長短を見極め、基準に近づけていくというものです。
物差し作りのもとになるのは職務基準や職能要件などですが、ポイントとなるのは、その社員のその時の役割に相応しいレベルの基準をいかに作るかということです。
相対考課は、売上高や不良率などの指標のもとで、評価される者どうしを相互に比較し、優劣を決めていくというものです。
絶対考課のように評価される者一人ひとりに対する基準を作る必要はありませんが、評価の対象となる指標をいかに客観的かつ明確にすることができるかがポイントとなります。
(2) 相対考課では、たとえばAさん、Bさん、Cさんの中で、相互に比較してだれがトップでだれが最下位かといった順位付けをするため、昇給、賞与や昇格といった処遇を決めるには都合のいいものです。
昇給や賞与の原資、昇格のポストなどには限りがあるため、だれにより多く配分するか、だれがよりそのポストに相応しいか、つまり、限られた経営資源を貢献に応じてどうやって分配するのかの基準となるものです。結果的に、貢献への意欲が高まることにもなります。
一方、絶対考課は、その者が自分の役割として期待されていることをどれだけ達成したかを評価するものです。従って、評価結果については、明確な基準をもとに説明すれば説得力があり、納得を得られやすいといえます。
相対考課のような他者との比較の中では、越え難い差というものが厳然とあったりするため、場合によっては「あきらめ」の中でヤル気を失ってしまうこともあります。絶対考課は他者との比較をせず、その人に適度に相応しい基準とその人との距離を測るもののため、能力開発や動機付けをするのに非常に適しています。人間は、自分の強みや良い所をはっきりと自覚し、それを伸ばそうと意識することによって、自己を前進させることが容易になります。絶対考課は、それを手助けする道具となります。
このように、絶対考課は人を育てる機能を有し、相対考課は貢献への意欲を高める機能を有しているといえます。
(3) 運動会で子供が走っていて、どの子が一番速かったかはだれの目にも明らかです。しかし、スタートの仕方、腕の振り、足の引き上げ、コーナーの取り方、呼吸の様子などを細かくチェックしなければ、より速く走るためにはどうしたらいいかは分かりません。
このように、チェックする基準をあらかじめ設けておいて、それに照らして問題点を明らかにしていくのが絶対考課です。より速く走れるように指導するのが目的であれば絶対考課、一等二等などの賞品を決めるのが目的であれば相対考課が向いています。
(4) 相対考課の場合は評価指標が明確であればまだしも、絶対考課においては評価基準への充足度を確認するだけでは、本来の機能を有効に活用しているとはいえません。やはり、具体的な評価がオープンにされ、面接により確実にフィードバックされて初めて、育成機能を果たしたといえます。
しかし、こと中小企業に目を向けると、社員数の少ない中で、同じ仕事をしている人がほとんどいません。そのため、相対考課自体、成立する余地があまりないといえます。かりに無理やりおこなっても、社員を全体のイメージで評価してしまうことになり、納得性も公平性もありません。おのずと、中小企業では、絶対考課が中心にならざるを得ません。